求人スペック

dropout
 

前回の続き

入社して1週間経った。もう既にボロボロでした。

ようやくここでいうスペックの意味もわかりました。

スペックとは、

カタログやチラシ、DMなどに掲載する商品の仕様の事でした。
例えば、スーパーマーケットで牛肉のひき肉の掲載があったとして

<群馬県産>
牛ひき肉
200g
000円

みたいな記載のやつのことです。

ファッションなら

〔レディース〕
ウール混
ダッフルコート
サイズM・L・LL
7,800円(税込)

これに
『大人可愛いダッフルコート、この冬一番のアイテム!』
とか言ったキャッチコピーも併せて

決まったフォーマットで入力する事でした。

そんな僕は僕自身のスペックの低さに嘆きながら最初の一週間をなんとか生き残り
僕は求人スペックには足りていなかったことを嫌という程、思い知らされました。

そして、なんでこんな人生を選択してしまったのだろうという後悔の念と
ちゃんと大学で勉強すればよかったということと
高校時代や中学校時代まで遡って自分の人生のターニングポイントを検証するという
無駄な妄想の世界に取り憑かれて行きました。

さて、入社日に依頼された封筒デザインというと
15時を過ぎ、16時を過ぎ、17時を過ぎてもTさんの姿は見えませんでした。
18時を過ぎた頃、どこからか戻ってきたTさんに見せてみることにしました。

速攻ダメ出しを喰らって
気がつくと19時半になっていました。

周りは誰も気遣うことなく、もはや僕の存在など無に等しい状態でした。

オフィスのレイアウトは本棚とIKEAで買ったようなパーテーションで
打ち合わせテーブルと制作現場に分かれていたような記憶があります。
そこでPIE BOOKとかそういうデザインの参考書とかを読んだりしながら
macと打ち合わせテーブルのあるスペースを行ったり来たりしました。

しかし、これという正解は見つけられず
気がつくと20時半になっていました。

そこで無理やり参考のデザインを見本に仕上げて
Tさんの元へチェックにお伺いに行きました。

「できました」

『なんだコレ』

たった一言でおしまいです。
なんのヒントもありません。

もう、どこへ向かっていいのかすらわかりませんでした。

気がつくと21時半になっていました。

Mさんが

『私帰るけど、大丈夫?自分京都やんな?無理せんときや』
と声をかけてくれました。

そしてまたディスプレイとにらみ合う時間が続きました。

22時を過ぎた頃に思い切って言いました。

「すみません、今ここまでできてるんですが、続きは明日でもいいですか?」

と。

すると、

『なんでやねん、まだ22時やんけ。まだ始まったばっかやろ。』

まだ始まったばっか。。。
なんて恐ろしい世界にきてしまったんだろう!

恐怖に全身が悶えました。

いつもだったら今頃夕食食べて好きな曲聴いて
とかやっていたのが夢のように思えました。

 

いつまでたってもデザインの正解がわかりませんでした。

 

そしてデザインには正解がないんだ、と意識したのもこの頃でした。
デザインには主観的評価があって、その人の感性や印象、経験などで
全く評価が変わってしまう。

もっと簡単に言ってしまえば

好きか嫌いか。

という、単純なもので決められてしまう。
そんな風に当時は思いました。

当時の僕には、提案するという意識やマーケティング的な思考、
デザインというアウトプットに至るまでのプロセスなどがある事すら全く知りませんでした。

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僕は田中一光ポール・ランドソール・バスハーブ・ルバーリンロトチェンコブルーノ・ムナーリ
そういった世界のデザインに憧れていました。

ソール・バス Anatomy of a murder タイトルより
映画の世界でも様々な素晴らしい作品があります。

きっとそれは洋楽が好き。
とかと同じ感覚だったのかもしれません。

ただただ、見かけのかっこいいだけで。。。

 

そして23時半になり、

『お前京都やんな、今日はこれくらいで帰したる。』

と言われ、逃げるように会社を出て
走って終電に飛び込みました。

 

帰りの電車では明日からまたこんな毎日が続くのだろうか?
と早くも逃げ出したくなるような思いでした。

電車の中には疲れ切ったサラリーマンがたくさんいましたが
途中でどんどん下車していき、終点の出町柳駅に着く頃は
ほとんどしか乗客はいなく、静かで寂しい深夜でした。

2000年。
まだまだ未来は見えませんでした。

 

次回は飛んで3年後の世界に続く(かも)

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木村
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めぐれるの副編集長してる人。 静岡県浜松市出身、うなぎパイのとこです。 京都に来てはや20年以上。お酒とロックと夏が好き。 自由気侭なフリーランスで2児の父。