滞納

dropout
 

前回の続き

100万円

子供の頃に観たテレビ番組を思い出しました。

賞金100万円。

それは一つの基準点で到達点のように思えました。

 

まるで夢の中の世界の出来事。

子供の頃の憧れの単位、シンボル。

それが、100万円でした。

 

キャンペーンを伝えるオペレーターからの電話が切れた後

しばらくその金額について想像してみたのでした。

 

1万円札が100枚。

 

何冊の古本が買えるだろう?

CDアルバムなら300枚以上買えるかな。

中古アルバムなら幾つだろう?

 

10万円が10セットで100万円。

 

節約して暮らしたら一年は暮らせるかも知れない。

他はどうだろう?何が出来る?

多分ちゃんと働いてしっかりと貯金している、

まともな同級生とかからみたら容易い金額なんだろうな。

 

そもそもまともってなんだ?

 

ボーナスとかある人はこれくらい何でもないんだろうな。

ボーナスっていつどれくらい出るんだ?

 

100万円くらい、きっとみんな持っているんだろうな

 

その金額を想像する事すら困難な僕には

そんな風にしか100万円というお金をイメージが出来ませんでした。

 

そして、

 

 

僕には関係ない。

 

 

そう思ったのでした。

 

100万円というお金、そしてそのシンボルは

永遠に僕の人生とは切り離された世界の象徴のように思えたのでした。

 

オペレーターの人の言ったことを思い出して

頭の中で反芻してみました。

 

今の借りているお金にプラスで勝手に振り込まれてきっちり100万円になる。

ひと月後くらいに振り込まれた分にいつもの返済額を併せて返済する。

 

ただ、それだけ。

とても簡単なこと。

極めてシンプル。

 

再び、糺ノ森にざわざわと風が吹くのを感じました。

 

そう、この風と同じ。

最初からあってないもの。

ただ気まぐれに少し頬を撫でて通りすぎていくもの。

 

古本まつりに来ただけの何でもない普通の1日だったのに

その日その時間から世界から切り離された気分になったのでした。

意識し始めると、急に周りの人たちと自分の間に

とてつもない隔たりを感じ始めました。

 

きっとこうやって本を探し求めている人も

しっかりとした人生を歩んでいるんだろうな。

小汚い格好のこのおっさんも家に帰ったら

もしかしたら通帳を眺めているのかも知れない。

 

きっと誰も返済なんてものとは無縁な生活をしている。

 

僕だけこの世界で人知れず、一生懸命誰のためともわからない掘削作業をしている。

 

そんな事を一瞬想像して、そしてとても情けなくなって

本どころでは無くなったのでした。

 

ひとまずその電話のことは忘れる事にしました。

 

帰る場所もないので一杯引っかけようと街へ出ました。

 

カードローンを勧めた例の友だちを誘って。

 

夕焼けが眩しくて胸がキリキリとしました。

 

明るいうちから店に入って注文しました。

僕は気になっている事を単刀直入に聞くことにしました。

 

「ローンっていまどんな感じなん?」

 

「おお、全部返したで」

 

え?

 

手に持ったグラスが急に重く感じました。

 

「あ、そうなんや」

 

咄嗟に乾いた声で相槌をしました。

まるで自分の声ではないみたいでした。

堪らず話題を変えて話をしました。

でも話は、何一つ頭に入ってきませんでした。

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喉を流れる物も味ひとつ感じませんでした。

 

「次行こうか」

 

彼はそう言って二軒目へ誘いました。

 

僕には次なんてない。

何もかも都合よく行ける次なんてない。

僕には行き止まりだけだ。

 

そう思い、その夜は転々として気がつくと朝になっていたのでした。

 

罪悪感と朝には何も残っていない気持ちと財布が

前日の様子を伝えていました。

 

ミリオンと言う単位を想像したくなくても想像してしまう毎日がまた訪れました。

全く何も知らない相手が突然100万円を渡してくれる場面を。

あしながおじさんのようなイメージまで想像してしまいました。

そんな夢みたいな場面を…。

 

 

けれど、きっとこれは何か罠に違いない。

周到に練られた戦略なんだ。

話がよくできすぎている。

 

 

そう思うことで忘れることが出来そうでした。

でも簡単には忘れることはできませんでした。

 

減ったと思ったのに減らないリボ払い。

それを返すために借りたはずのカードローン残高。

それが度重なる転職やその間の転職期間という名の無職期間が

支払いという形で迫ってくるのでした。

 

そんな中、一つの手紙が役所から届けられました。

封筒を開封すると通知が書いてありました。

 

 

財産差押について

 

なんでこう災難がやってくるんだ?

自分で招いたことをまるで誰かの仕業のように思いました。

とにかく行かなければいけないらしいということは理解したので

重い脚を区役所の税の窓口へ運ばせました。

 

窓口で説明を受け、まるで留置所のような狭い狭い密室へ案内されました。

市民税の滞納による差押えということらしく通帳が差押え対象になるということでした。

 

財産なんて何一つ持ってないのに。

 

そう思っている僕をよそに担当者は次々とそして淡々と怖い話をしていきました。

そして最終的には、名義は僕の名前だけれど

親が作った通帳を差し押さえるということでした。

 

まずいな、

とてもまずいな。

 

そう思いました。

役所の人間は最後に言いました。

 

「とりあえず今持ってるお金を払ってくれたらこの場はいいんで。」

 

僕は財布からローンの中から借りていた1万円札を差し出しました。

 

「分納で払えるし、月々いくらにしますか?」

 

もう待ったなしの感じで答えなければいけない感じでした。

思わず答えました。

 

5,000円なら

 

これはもしかして多重債務?もう意味がわかりませんでした。

 

続く

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木村
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めぐれるの副編集長してる人。 静岡県浜松市出身、うなぎパイのとこです。 京都に来てはや20年以上。お酒とロックと夏が好き。 自由気侭なフリーランスで2児の父。