2012年3月、「災害で消えた小さな命展(旧:震災で消えた小さな命展)」は、はじまりました。
2011年3月に起きた東日本大震災や、2016年4月に起きた熊本地震、他、様々な災害で犠牲になった動物たちを絵にした展覧会です。
絵本作家、画家、イラストレーターなど趣旨に賛同した人たちが、東日本大震災で犠牲になったペットたちの姿が描いた絵が、思い出のコメントや、飼い主の方からの手紙と一緒に並べられています。
描かれた絵は、展示会で日本や海外などあちこちを旅した後、飼い主さんにプレゼントされます。
「災害で消えた小さな命展」は7年前にはじまり、原画展、複製画展を含めると80ヶ所以上で展示が行われてきました。
そして、これからも継続を予定されているそうです。
「災害で消えた小さな命展」をはじめたきっかけ、「災害で消えた小さな命展」を続ける理由、「災害で消えた小さな命展」を通して伝えたいことを、代表のうささんにお話を伺いました。
亡くなった動物の気持ちと、残された飼い主さんを絵でつなげたら
—「災害で消えた小さな命展」をはじめられたきっかけを教えていただけますか?
うさ:2011年の3月に東日本大震災があって、私は秋に初めて被災地に行ったんです。
最初からこの活動をしようと思って行った訳ではなかったんです。
—そうなんですね
うさ:震災があった時に、何かできることがあればと思って、ボランティアセンターに電話をして聞いたら、いっぱいですって言われたんですよね。
それを聞いた時にびっくりして。
日本全国から、断るほどのボランティアの人が来ているんなら素晴らしいことなんですけど。
本当かなぁ?っていう思いもあって。
もし、それが本当だとしても、助けを求めていても、届かない声があるかもしれない。
やっぱり、それを知るためには自分で現地に行って確かめようと思って、秋に南三陸町に行ったんです。
—津波被害が大きかった町ですね。奇跡の一本松の。
うさ:最初はどこに行くか悩んだんですが、たまたま南三陸町に仮設の図書館が建ったというニュースを見たんです。
私は絵本を描いているので、もともと誰かにプレゼントできたらと思っていたので、「そうだ、図書館に寄贈しよう」と思って。
—なるほど
うさ:その時に被災された方といろいろなお話をした中で、動物たちの家族を失った方と出会いました。
その方達のお話を聞いていると、避難所でペットを亡くした悲しみとか苦しみを言葉にできなかった方がほとんどだったんです。
人間の家族を失った方がいる中で、動物のことを言っちゃいけないんじゃないだろうかと思って、声に出せなかったと。
—遠慮して。
うさ:中にはそのことを言葉にされた時に、「人間の家族じゃなくて、動物で良かったね」と言われて、傷ついたというお話もされて。
—悪気がない言葉なんでしょうけど…
うさ:津波で沖の方まで流されてしまったりとかして、行方不明になっている動物たちも多いんです。
人間の場合はいろんな方が探してくれますけど、動物はそういうのはないので、飼い主さん自身が自分で探すしかないんですよね。
泥だらけになった家の周りを探していて、瓦礫の奥を探って、引っかかったものが犬の首輪で。
引き上げた時の、わんちゃんのあまりにも変わり果てた姿が、目に焼き付いてしまって、元気だった頃の姿を思い出すことができなくなってしまった、という方もいらっしゃったんです。
—あぁ…辛いですねえ
うさ:本当にみなさん、ご自分を責めておられて。
「私だけが生き残ってしまった」とおっしゃっていて。
—罪悪感を感じておられたんですね。
うさ:うちにも動物の家族がいるのでわかるんですが、動物たちって、何があったかはわからなかったとしても、私たちが悲しかったり、嬉しかったり辛かったりっていう気持ちを、誰よりもわかってくれたりすると思うんですよね。
その子たちが、自分が死んでしまったことによって、自分の大好きな飼い主さんが苦しむのを、絶対に望んでないだろうと。
—確かに。
うさ:この子たちが望んでいることは、飼い主さんに笑顔が戻って、前を向いて進んでもらうことだろうなぁって思ったんです。
—はい。
うさ:その時に、津波で何もかも流されて、思い出の写真1枚も残っていない人にお会いしたんです。
私は絵を描きますし、私の周りにも絵を描く人たちがたくさんいるので、元気だった頃のその子の姿を描いて差し上げたら少しは喜んでいただけるのかな?と思ったんです。
—なるほど。
うさ:絵を描くことによって、亡くなった子の気持ちと、残された飼い主さんを、つなぐことができるかもと思ったんです。
姿がどんな形であっても、本当に大切な存在であり、家族なんだということを伝えたい
うさ:もうひとつ大切なことがあって。
日本各地をずっと巡回していることや、7年間続けていることとつながるんですけど。
動物たちがどうして命を落としたかということを、伝えたかったんです。
というのは、命を落とした動物の中には、「もしこの子達が人間だったら助かっていたという」ものがほとんどだったんです。
—展示を見て、それは感じました。もう少し環境が違っていたら、救えたかもしれないのにと。
うさ:例えば、避難所に一緒に避難してきたけれど、動物だからということで室内に入れてもらえず、外に繋いで置くように言われて津波で流されてしまったとか。
もしも人間と同じように室内に入れていたら、救えたはずの命だと思うんですよ。
—ですよね。はい。
うさ:動物を家族に迎えている人にとっては、犬や猫、うさぎやハムスター、もっと小さな生き物だって同じ家族じゃないですか。
でも、動物のことを理解されていない方からすると、「犬でしょ?猫でしょ?人間とは違う」と思われてしまう。
—ペットを飼っていない人には、ペットに対する感覚は伝わりにくいですよね。
うさ:姿がどんな形であっても、本当に大切な存在であり、家族なんだということをやっぱり伝えたいなと思ったんです。
そうすることによって、次にまた災害が起きた時に、ひとつでも命を救うことができたらいいなと。
—なるほど。
うさ:この2つの目的で、「災害で消えた小さな命展」の活動をはじめようと決めました。
時間がたって、震災に関する関心が少なくなったからと、この活動をやめてしまえば、何も変わらない
—「災害で消えた小さな命展」は、日本中を巡って、外国にも行って、かなり長く活動を続けられていますよね。
続けられる理由というのを教えてください。
うさ:避難所で起きたこと(動物だから外で繋いでおくように言われたために、津波で亡くなってしまった)から、「どんな命も同じ命の大きさなんだ」ということを伝えたくて「災害で消えた小さな命展」を続けています。
そこで、ずっと「ペット同伴避難」を訴えているんです。
「ペット同伴避難」というのは、人と動物が同じ家族として、一緒に安全な室内にいられる避難所のことです。
もちろんアレルギーがある方もいらっしゃるから、同じ場所が難しければ、住み分けをすれば良いと思うんですね。
—確かに。動物が苦手な方がいても、違うエリアにすれば。
うさ:そういった避難所にすることは、それほど難しいことではないと思うんですが、それが7年たっても何も変わっていないんです。
去年熊本地震が起こった直後に、私は被災地に入ったんですが、避難所で「ペット同伴避難」が実現されている避難所はどこにもありませんでした。
その後時間がたって、やっと2つだけ見つけたんですが、それは元々はペット不可だったのですが、飼い主さんが戦って戦って、やっと勝ち得たスペースで。
—そうなんですね。
うさ:まだ全然変わっていない。
時間がたったからといって、震災に関する関心が少なくなって行くからと言って、やめてしまえば、何も変わらない。
関心を持つ人が少なくなるからこそ、これは続けていかなければならないと思っています。
—足を運ばれる方の数は減っていますか?
うさ:やっぱり減ってますね。
こうやって展示会をして看板を出していても、通り過ぎて行く人が多いです。
人が多かったのは最初の2、3年です。
—関心が薄れてきている。
うさ:災害の直後には、人が沢山来るんですが。
東日本大震災があまりにも規模が大きかったので、去年の熊本地震もすぐに報道そのものがなくなってしまった。
そうなると、やはり来る人は減っていきますね。
なんていうか、何か一時のブームみたいな感じで盛り上がって消えていく、そんな風潮を感じていて。
—ああ、わかります。
うさ:でもこれはブームでもなんでもなくて、実際にたくさんの命が、人も動物も失われている訳なんですよね。
こうしている私たちも、今から数時間後に大きな災害にみまわれる可能性がある。
避難しなければいけないようなことって、いつ来るかわからない。
—今もし災害にあって、避難所にペットを連れていっても、入れてもらえないんですよね。
私は猫を飼っていて、災害があった時にどうやって連れて逃げるかはシミュレーションして、キャリーの場所やハーネスの付け方の練習などもしていましたが、避難所に入れてもらえないということを、今まで全く考えていませんでした。
人の命も動物の命も、逃げてきた命はちゃんと救えるような避難所になるまで、続けていく
—これからも活動を継続されていくのでしょうか?
うさ:そうですね。
これは続けなければいけないことだと思うので。
動物たちがこういった形で命を失ってしまったという事を知ってしまった以上、やらなければいけないことだと思っています。
—はい。
うさ:「人命優先」っていう言葉を聞くたびに思うことがあって。
震災の時に動物を連れて避難所に来た人が、「人命優先」ということで動物が避難所に入ることを断られて、放っておけないということで、動物と自宅に戻った方がすごい沢山いたんですね。
その方たちはその後津波でペットと一緒に亡くなっているんです。
—「人命優先」という言葉によってペットを排除した結果、人命が失われてしまってる…
うさ:そういう話って、ちっとも表には上がってこないですよね。
—はい。
ただ、もし自分だったとして災害で怯えているペットを外に放り出して、自分だけ避難所に入れるかと考えると、それはないなと。
やはり私も、もしペットと避難所に入れなかったら、ペットを連れて家に帰るような気がします。
うさ:実際に被災地に行くと、そういう話をあちこちで耳にしました。
そうやって亡くなった人たちのことを考えると、「人命優先」って何なんですかって思うんですよね。
「人命優先」っていうことを言うなら、動物の命を救わなければ人の命も救えないんです。
この活動は、当たり前に人の命も動物の命も、逃げてきた命はちゃんと救えるような避難所になるまで、続けていかなければいけないなと思っています。
—はい。
うさ:災害の時だけ命の平等ができるはずもないんです。
やっぱり日常生活での命の価値観が、いざとなった時に出てくる。
私たちひとりひとりの、動物の命に対する考え方を変えていかないと、災害時の問題も変わらないと思うので、日常生活を含めてすべての命のことを訴え続けていきたいなと思っています。
ペットと避難できる場所を作って欲しいということを伝えるために動いてみるっていうことが大切
—「災害で消えた小さな命展」を見に来られた、お客様の反応はいかがですか?
うさ:まず見に来て、「確かに動物も沢山亡くなってるよね」って初めて気づいた人もおられれば、「動物が亡くなっていることは知っていたけれど、こんなに深いところまで考えたことはなかった」という人もおられます。
—私も震災でペットが亡くなったことは予想していたはずですが、避難所での動物の扱いについて考えたことはありませんでした。
うさ:やっぱり知ることがすべてのはじまりだと思うんです。
知ったからこそ、できることを何かしようっていう気持ちがうまれる。
—今日初めて「災害で消えた小さな命展」を拝見し、いろいろ感じることも多く、何かしたいと気持ちになっています。
ただ、何をしたら良いのか…
うさ:「私何もできないから」っていう方は、本当に多いと思うんです。
でも、本当はそんなことはなくて。
例えばこの展示会のことを、お友達に知らせてもらうことも、その人にしかできないことです。
—ペットと同伴避難を可能にするために、個人でできることはありますか?
うさ:動物を家族に迎えている方で、同じ質問をされる方はとても多いです。
まず自分の地域の防災課だったりとか避難所を調べて、その避難所を運営する方達に自分の思いを訴えたりだとか、ペットと避難できる場所を作って欲しいということを伝えるために動いてみるっていうことが大切ですと伝えたら、「それじゃあ、今度声をあげてみます」と言って帰られる方は結構おられます。
—なるほど。地域での活動を広げて、まずはまわりの人の意識を変えていかないと、日本全体を変えることはできないですもんね。
「震災で消えた小さな命展 複製画展〜東日本大震災〜」が京都で開催されます
2018/2/1〜2/27
会場:おうちごはんcafeたまゆらん
〒606-8417
京都市左京区浄土寺西田町108-4
Tel. 075-634-3313
営業時間 12時〜18時(定休日:水曜日+不定休)
※カフェ内での展示となりますので、1オーダーをお願いします。
うささんからお知らせ
うささんが脚本・演出を手がけられている舞台、「Voice in the Wind」が2018年7月10日から12日に京都府民ホールALTIで開催されます。
ただいまキャストを大募集中とのこと。