豚の行進 march of the pigs

dropout
 

前回の続き

march of the pigs

前回残りのローン残高:873,538円
リボ払いの残高:110,000円

祇園祭が過ぎすっかり夏がやってきました。
同居人や友人と無駄に白浜まで出かけたり、ドラマーが30歳を迎えたのでパーティーをしたり
ペプシのキャンペーンでボトルキャップを集めたり(スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐の公開のため)
とても蒸し暑く、様々な出来事が起こり心身ともに火傷した2005年の夏でした。

その年のサマーソニックはナイン・インチ・ネイルズ(NIN)が出演するって聞いた時からすでに心が躍っていました。

高校生の時に、アメリカのインダストリアルロックバンド、 Nine Inch Nails(NIN)の2ndアルバム『The Downward Spiral』に衝撃を受けたのです。

THE DOWNWARD SPIRAL [2LP] (180 GRAM, 2016 REMASTER) [12 inch Analog]
「Mr. Self Destruct」から始まるオープニングの何かをしばき倒す音からして、ウブな僕には色々ぶっ飛んで聞こえました。
(その音はジョージ・ルーカスの映画『THX 1138』からのサンプルで、ヘルメットにマスク姿の警備員に男性がしばかれている音だということを後から知りました。)

中でもMTVで観た、アルバムの4曲目『march of the pigs』のVIDEOにすっかりハマったのでした。

7、7、7、8拍子のドラムパターンが印象的な曲で、途中に乱入してくるお姉さんに妙にドキっとさせられたり
マイクを投げまくるボーカルのトレント・レズナーが細身で挑発的で、何もかもクールでカッコ良く映りました。

1994年3月にリリースされたライブ演奏と同期されたこのビデオ。
僕の心はたった3分の曲にズキュンと撃ち抜かれたのでした。

 

そんなバンドがサマソニに登場するって聞いたものだからじっとしていられない気分でした。
今すぐチケットを買いたい!
誰か一緒に行ってくれないかなぁ。

そこで、バンドメンバーに声をかけることにしました。

二人ともすぐに返事が来ました。

『すまん、予定がある。』と。

希望は消えました。
他にも当たってみましたが全滅でした。
さて、一人で行くか…。

サマソニにNINが出るって最初知った時からすでに数ヶ月経過していました。

どうする?
チケットを買うには多分またカードで支払うことに…。
迷いました。

悩みました。

あの時のお金、あの時の支払い…
様々な支払が頭の中を駆け巡っていきました。

あのお金があれば、あの時のあのお金があれば。

しかし、前回からの残りのローン残高:860,981円
リボ払いの残高:80,000円

併せてまだ残り94万円も返さないといけないのです。

心を鬼にして観に行くことを諦めました。

100万円借りきってしまってから、毎月3万円。

もう1年間返済していました。

合計36万円支払っていて139,019円しか減っていませんでした。

夏の間も変わることなくせっせと労働をこなしました。

サマソニ当日になり一軒家で扇風機にあたりながらパソコンの前にいました。
そして、なぜか予定があったはずのメンバーが集結していたのでした。

僕は言ってみました。

「今日さ、サマソニだって。NINどんなだろうね?」

『せやなー。』と、ドラマー。

「今から行ったら観れるんかもね。」

時刻はすでに15時になっていました。

『ほな車出そうか。』

ベースの同居人が言いました。

一度は諦めた願いが近づいてきました。

結局夕方になり僕らは車で大阪南港へ向かいました。

降りる駅を間違えて大雨に打たれ、さんざん迷ってようやく会場脇へ。

もれる音に3人必死に耳を傾けました。

 

まさにNINが演奏している時でした。

巨大なスクリーンに映っているトレント・レズナーが見えました。

 

あ!

 

 

細くない!

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あんなに細くてクールだった姿から、丸坊主で筋骨隆々の大リーガーかレスラーのようになっていました。

 

10年でこんなに人は変わるんだ。
そんな風に思いました。

僕も変わっていかなければいけない。
この借金地獄生活から。

すでに8月のはじめにはアップルは「iTunes Music Store」の日本でのサービスをスタートしていました。
そして、MacintoshのCPUはPowerPCからインテル製CPUに変わることが決まりました。

世の中は生き残るために変わらなければいけないこともある。
そう思えました。

細身からマッチョに変わったトレントも変わることで生き延びたのかもしれません。

自分にとって価値があると思っていたサマソニのチケットを買わなかったことは
一つ良いのか悪いのか、変化なのでした。

いつもなら何も考えずに買ってしまうところを我慢した、結果的にできたのです。

変化は生き延びるために必要なこと。
世の中、変化だらけに思えてきました。

 

そんな中、この職場に誘ってくれたイラストレーターの女の子が結婚のために退職することが決まりました。

 

 

 

みんな変わっていくんだなぁ。
と、相変わらずの調子でぼんやり生きている僕には『結婚』とは全く意味がわかりませんでした。

人が幸せになっていくのはいいことだな。

でも、僕にはそんなことは一生関係ない。
結婚もしないし、子供も要らない。
そんな風に思っていました。

だから何故、人がわざわざそんな風な形に収斂されていくのか理解に苦しみました。

それで何が変わるんだ?
自由が奪われるだけじゃないか。

そして何より結婚にはお金がかかる。
というのも僕が結婚というものに敬意を払えない理由の一つでした。

僕は一人の個性ある人として生きていきたい。

結婚にまつわるマーケット、ブライダル市場や保険などの格好の餌食されるのが嫌だと思っていました。
それは、僕という物語から切り離されたところで勝手に数値化され消費の対象になる、というように思えていたからでした。

それはお金に対する嫌悪感と似ていました。

デザインでも音楽でも小説でも、何かが作られる場合、考え、苦心し、試行錯誤し、実験し、失敗し、そういうような繰り返しの後で
『ひとつのカタチ』として成果物が世に出てくるわけで、それらの過程を全て無視してしまう(ように感じられる)『お金』に苛立ちを持っていました。

僕は、その成果物に対し、信用に基づいた記号で最終的に誰にでもわかりやすくするための価値交換のコミュニケーション手段の『お金』で
(その査定、評価システムも含めて)数値化されることを嫌ったのでした。
まるで、心が宿っていないように感じていたのと、その査定、評価をする価値観を束ねる目に見えない巨大な力に反発心を持っていました。

それはもしかしたら、ブランドという言い方ができるかもしれません。

例えば、どっかの普通の山の湧き水を『●●●の銘水』というネーミングをつけて、それっぽいパッケージでお化粧したら
それまで何の価値も感じなかったフツーの水を一つのブランドに近づけられる。
またそれを権力を持った団体がお墨付きを与えることで、何倍もの価値創造することが可能になるように感じられ、それがしかも作為的に思えたからです。

1000万円の宝石があるとして
・輝きが美しいから1000万円支払ってまで欲しいのか?
・1000万円の買い物をしたという事実が欲しいのか?

石ころなのか宝石なのか?
価値観はひとそれぞれ違うと思うのだけれど、その良さにつながるストーリーが僕の中には欠如していました。

そんなことを悶々と、女子がいなくなった男二人の残暑がむさ苦しい事務所で考えていました。

カタログ制作の仕事がやってきました。
予算も少なく、何にもないところから写真や原稿なんかを整理しながらデザイン含めて76ページ程の冊子を2週でフィニッシュすることになったのです。
石材メーカーのカタログでした。

ただの石ころをより価値あるものとして見せなければいけない仕事でした。

あと残りのローン残高:848,236円

リボ払いの残高:50,000円

 

続く

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木村
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めぐれるの副編集長してる人。 静岡県浜松市出身、うなぎパイのとこです。 京都に来てはや20年以上。お酒とロックと夏が好き。 自由気侭なフリーランスで2児の父。