情報を制するものは夏休みを制する
2006年。
この年の夏はハンカチの夏でした。
高校野球、夏の甲子園大会では延長15回でも決着がつかず、決勝引き分け再試合となったあの夏です。
斎藤選手、田中選手以外にも大阪桐蔭・中田翔選手、梶谷隆幸選手、仙台育英・由規選手ら多くの選手達がしのぎを削り、現在もプロ野球やメジャーリーグで活躍している選手が多数出場していたあの夏でした。
高校球児が燃える夏、激闘を繰り広げている中、お盆を目の前にして僕は
浮かれていました。
幕末女子に
「せっかくの夏休みだから、どっか行きたいねー。」
と、探りを入れ
「いいねー、行きたいなー。」
との回答をいいことに
なんと幕末女子を旅に誘うことにしたのです。
そして、お盆休みに勤務先の代表が帰省するというので、ちゃっかりそのクルマに便乗して、旅に出る計画を脳内でこっそり立てました。
幕末女子と喋っているうちに
「やっぱり高知がいいな〜。」
と、いうフレーズが出てきたので、旅の目的地は四国、高知に決まりました。
幕末といえば龍馬。龍馬といえばそして高知なのです。
京都から岡山までをクルマに便乗して、岡山から高知までを電車で移動するという作戦です。
初のデート旅行で無謀にも便乗旅行。
しかし、お金はない。
でも楽しみたい。
なりふり構わず脳みそを使った結果がコレでした。限られたお盆休みをいかに有効に楽しむことができるか?
1分も無駄にしたくありませんでした。
どうやったら段取り良く、時間をロスせずに周れるか。もし、知らない土地で迷ったらロスになる時間がとても多そうだ。できるだけ多く楽しみたい。色々観たい、行きたい。
もしかしたら、ローカル線とかは本数が少なくて乗り損ねると1時間近く待たないといけないかもしれない。低予算でありながら貧乏くさくなく、コース取りも重要。そして、宿や移動手段を確保しないといけない。少し情報誌やネットで調べるだけでも、あれも行きたい、ここも行きたい、これも見たいとなってしまい、仕入れた情報でたちまち脳内がキャパオーバーになってしまいました。
そこで、僕は旅のしおりの作成に着手することにしたのでした。
旅のしおりを作成する(情報の整理とまとめ)
しかし当時の僕は、幕末や日本史に興味がありませんでした。
歴史に触れるたびというお題目を与えられても、なんにもイメージすることができませんでした。そこで行きたいところを彼女に予めリサーチしておくことにしました。
すると、
桂浜、播磨屋橋、高知城、坂本龍馬記念館などなど続々とキーワードが出てきました。
そうやって、リサーチしたキーワードやポイントを並べ、整理し、おおよその段取りと流れのプランを行程や金額などを加味しながら作ることにしたのでした。
そして、作り始めてみると、だんだん面白くなってきてしまったのです。プランAで進行して、地点アに到達して地点イに向かう。しかし地点アで予想滞在時間を上回った場合、下回った場合、それらを予測して派生プランA’、A’’を考える。時間軸を横にして縦にスポットを設置。それがどのように絡まっていくかで電車やバスに乗車する時間も変わる。そんなことを考えるのが楽しくなってきました。頭の中でなんとなくイメージしていても、いざ紙やデータに起こすと自分のイメージの抜けている箇所に気がついたのです。
そうやって練りに練った「旅のしおり」を幕末女子に渡しました。
こんな風にライフプランも考えることができたらもっとマシな生活だったかもしれません。しかし、「日常という魔物」と「慣れという麻酔」がそのような考えから遠ざけてしまっているのでした。ぜひとも、若人のみなさんには人生の旅のしおりを作ってもらいたいものです。
そして旅の当日になりました。
車でまずは岡山まで送ってもらうのです。そして岡山から電車で高知を目指すのでした。旅の早々にトラブルがあり、なぜか道の選択を誤り予定の時間には間に合わなさそうな気配が漂ってきました。
さらに、幕末女子は「旅のしおり」を会社に忘れてきてしまったという事実が判明したのでした。
この展開は予想していませんでした。
今はスマホがあれば手に入る情報がガラケーで情報を手繰り寄せるのは難しい時代でした。
そこで、自分の記憶やメール、検索履歴など携帯を駆使しながら何とかコースやプランを思い出し、点と点を結んでいったのでした。
数々の名所を巡り、皿鉢料理やのれそれ、鰹などの地元料理を堪能することができたのでした。本当に高知の魚は美味しかったです。酒も肴も最高な土地。ぜひまた行きたいです!
想定外は突然に
高知を満喫した後は、琴平に立ち寄ってうどんを食べたり金刀比羅宮へお参りし、酒蔵を見学したり、試飲をしたり。
旅の計画もしっかり立てていても想定外の出来事があれば変更を余儀なくされてしまう。しかし、想定外の出来事があったとしても「旅のしおり」的なもの、つまりは情報をある程度持っていることがあればリスクをある程度回避できたり、手をこまねくことなく何かしらの対応ができるということが分かったのでした。
あっという間に旅は終わりを告げようとしていました。もう京都へ帰らないといけないのです。四国を離れること思うと胸が少し痛みました。そして本州へ向かう電車に乗りました。旅は道連れ、世は情け。一人旅もいいけれど、誰とどういう体験をして共有できるか、これもまた旅の良さだなぁなどと振り返り、しばらく旅の余韻に浸っていました。そして、瀬戸大橋を渡る電車の車窓から瀬戸内海を覗くと、太陽の高さが夏の終わりに少しずつ近付いていることを物語っていました。急に日差しが目に突き刺さりました。
幕末女子から眼からは一雫流れ落ちたので、僕はハンカチを渡し、彼女はそっと瞼を拭っていたのでした。
あっという間の夏休みが終わりを告げていました。気がつけば京都駅。現実に少しずつ引き戻されていく感じがしました。また普段と変わらない日常がスタートすると思うとちょっと心が重くなりました。
そして、京都駅に着くと
「お母さん迎えに来てくれるっていうから、乗ってけば。」
?
お・?・
おお?
お母さん?
どこのお母さんかと一瞬思いましたが、他に思いあたる人はいません。
想定外の出来事でした。
てっきり途中まで一緒に帰るものと思っていたために油断していた僕は強烈なカウンターを浴びせられたのでした。
目の前の事態に、明日からの日常のことなど、どうでも良くなりました。
今そこに『お母さん』という現実が迫ってきているのですから。どうしようかと思考を巡らせている間に気がつくと、既に送迎レーンに立っていました。
あ、
あ、
初めまして。
木村です。
これが、幕末女子のお母さんとの出会いでした。
そして、瞬く間に10月になり、あの日を迎えることになったのです。
続く
あと残りのローン残高:664,066円
リボ払いの残高:約70,000円
限られた時間で目的を果たす際にやはり鍵になるのが『情報』。知っていると知っていないでは大違い。
旅のしおりという情報の束を利用しながら(正確には記憶を頼りに)時間を省力化できました。そんな旅のしおりも今ではアプリで簡単作成、共有できちゃう時代。だからこそアナログ的に手を動かし、色々想像しながら作るのもいいものですよ。そして、知らないところで知らない場所、ネットや雑誌に載っていないお店に入るのもこれまた楽しい。そのうちきっと誰かがブログに載せたりするんだろうけど。そうやって少しずつ世界が狭くなっていくから、宝探しに出るトレジャーハンターのような気分で載っていない場所に出かけるのも、この夏の楽しみ方かもしれません!
まだ知らない場所を探してみよう。
ではみなさん、良いお盆休みを!