ブルータス、お前も(結婚するん)か!

 

前回の続き

前回の残りのローン残高:664,066円
リボ払いの残高:約70,000円

「なんやとーーー!」

思わず心の声が漏れ出しそうでした。

面白おかしい共同生活は遂に2回目の冬に一歩づつ近づいていたのでした。
共同生活者のモリシがロシアに旅立つとかなんとか言い始めていた頃からもう1年が経過しようとは。

永遠に続くと思われた暑い夏も過ぎ去ってしまえば懐かしくなりました。
朝はTシャツだと寒いし、長袖だと微妙。何かを少し羽織って出たら昼間は暑いし、夕方からは肌寒いからは要るなぁ。
季節の変わり目で風邪をひくのは嫌だけど、荷物が多くなるのは面倒だ。そんなことを思いながら何を着るべきか迷っている間に気がつけばもう冬になってしまいました。
迷っている間に、どこかに秋を忘れてしまったようです。

桂浜の龍馬

僕は夏から秋にかけて幕末女子(以下Cちゃん)と四国へ行ったり、京都に数多くある歴史の名所を巡ったり、色んな音楽イベントへ遊びに出かけたりしました。

バンドメンバーとの共同生活では常に何かしらの面白おかしいイベントや出来事がたくさんありましたが、同居人モリシはこの頃になると帰宅しても不在なことが増えてきました。いろいろな事情で彼は彼女と夜遅くに2人で帰ってくることが増えてきました。

(この頃からは想像できないのですが)今はすっかり経営者のHくん

『メキシコ料理がなんか食べたい!』

という突然の連絡かつ無茶な要望に応えて、明治屋へ走って材料を調達して、一生懸命タコスを作ったり(今から振り返ると、この頃から社長っぽいなぁ)お金はないくせに、それなりに毎日を楽しんで過ごしていました。

平和な毎日が穏やかに流れているように思えました。
何もかもが変わらず、このままだったらいいのになぁ、と思ったくらいです。

しかし、現実は厳しい。
ローンの支払いもある。
そして、僕はあと数週間で30歳になろうとしていました。

自分の理想の30代なんて思い描いてもいなかったけれど、目の前に差し迫っている30という『数字』が変に僕を気負わせるのでした。
10代の頃は早く大人の権利を得たいとばかりに20代に憧れていたくせに、いざ20代に突入すると、遊んで、働いて、学んで、痛い思いをして、今後のビジョンもなく、達成感もないまま、もう30代に突入。
ビジョンはなくとも幻想だけは立派に抱いていたので、幻想と現実の自分のギャップに落胆するのだけは一丁前にしていたのでした。

その現実から目を背けるべく、毎日をそれなりに一生懸命に過ごしていました。
その結果がどこかにたどり着くことなんてイメージもしていないのですが、仕事も遊びも無闇にこなす、こなしていたのかもしれません。
ただ、夜中に一人でいると、現実の数字と漠然とした理想のイメージや他人の満たされていそうな暮らしを思い浮かべ行き場のない気持ちになったのでした。

そんなある日、自宅に戻ると珍しく早い時間帯にモリシが居ました。

「おお、おった!なんか久しぶりやな。」

「せやなー。」

そして彼は突然告げたのです。

「木村くん、俺 T子と結婚するし家出るわ。」

「え?」

marriage

突然のことでうまく反応できません。

「あぁ…、お、おお、おおお。おおおおー! おめでと!」

スポンサーリンク

 

すぐさま僕は自分のことが心配になりました。
家賃のことが気になったのです。

「あ、ああ、あのさ、いつまで住むん?」

すると、すかさず

「契約2月までやしそれまでは家賃払うで。そのあとは木村くんCちゃんと住んだらええやん。」

Cちゃんと住んだらええやん…。

「なんやとーーー!」

思わず心の声が漏れ出しそうでした。

突然すぎる告白と、一方的な提案。
何を根拠にそれを提案しているのだろうか彼は。

するとモリシは
「ジン君(バンドのドラマー)でもええやん。」

「なんやとーーー!」

再び心の声が漏れ出しそうでした。

祝福をしたい気持ちと、根拠のない一方的な提案に沸き立つ怒りとの狭間で感情が昂るのを抑えるのに必死でした。

「初めから2年契約やしなぁ。まだ3か月ちょいあるし。」

モリシは、去って行きました。

正論といえば正論でした。

2年後のことを2年前に考えていなかった僕が悪いといえば悪いのです。
永遠にこの生活があると勝手に楽しい気分で準備も計画もなかったのですから。
しかし、3ヶ月後に訪れる死刑執行の予告を聞いたような僕は思わず

『ブルータス、お前もか!』

ブルータス、お前もか!

独裁官ユリウス・カエサルが議場で刺殺された時に腹心の元老院議員のメンバー、ブルータスに向かって放ったと言われるフレーズが脳内で猛ダッシュしました。

『全日本独身貴族院 議長』を自称していた僕は、共同生活者の結婚がまるで裏切り行為のように映ったのです(勝手ながら)。

モリシ、お前もか!

お前も結婚というブラックホールに吸い込まれていくのか!と。

みんな次々と結婚しやがって。なんだか、いろいろ取り残されていく感じと、ようやく落ち着き始めたライフサイクルが変わっていくのと、独身貴族の気ままな仲間が離脱していくことなど少し寂しくなりました。

引っ越しか…。

また、金がかかるなぁ。

家賃が毎月約5万。
モリシへの返済約1万円。
それにカードローンが3万円。
リボ払が3万円。

毎月約12万円の支払いと別に3ヶ月で敷金礼金を作らないといけない。
この頃、毎月手元に残った数千円を普段使うのと別の口座に少しずつ預けるようにし始めてはいましたが、所詮は微々たるものでした。

今までのローン支払い計26回を終え、トータルで78万円を入金
残りのローン残高:664,066円

減ったのは、33万5,934円…。

44万4,066円も不要な支払いをしていることに腹立たしさを感じていました。

それだけあったら引っ越せるやん。

それ以外にも死刑執行のようなイベントが目前に訪れようとしていたのでした。

 

残りのローン残高:648,367円
リボ払いの残高:約40,000円

 

続く

スポンサーリンク

木村
About 木村 34 Articles
めぐれるの副編集長してる人。 静岡県浜松市出身、うなぎパイのとこです。 京都に来てはや20年以上。お酒とロックと夏が好き。 自由気侭なフリーランスで2児の父。